収入が増えたのに税金が戻る? 太陽光発電事業で「損益通算」を活用する方法
2017/10/31
- 「損益通算」とは?
個人の所得は、税制上、以下の10種類に分類されます。(給与所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得、利子所得、配当所得、事業所得、退職所得、一時所得、雑所得の10種類)
例えば、サラリーマンの給料は給与所得に該当し、アパート経営などによる収益は不動産所得に該当します。また太陽光発電による売電収入は事業所得あるいは雑所得に分類されます。
通常、収入源が給与所得だけであれば、所得額はプラスになりますが、その人が不動産賃貸事業を始め、不動産所得で損失が生じた場合、その損失(損)と給与所得の利益(益)を通算(合算)して最終の所得を確定することとなり、これを「損益通算」と言います。
給与所得のほか、事業所得、公的年金のような雑所得、譲渡所得等がある場合も、これらの所得と通算することができます。(ただし、土地・建物の譲渡などの分離課税の適用があるものは除きます)
つまり、給与所得だけであるとプラスであっても、他の所得でマイナスがあった場合は、損益通算されて、トータルの所得が減り、結果的に節税になるというのが基本的な原理です。
- 「モノ劣化代=減価償却費」はキャッシュアウトしない損金?
損益通算を用いて節税を行う上で、減価償却の仕組みを理解することは重要です。
「減価償却費」とは、簡単に説明すると「モノの劣化代」ということです。税法上は、価値が劣化しない「土地」は減価償却費が計上できず、時間とともに劣化する「モノ」だけ減価償却費を計上することが可能です。
この減価償却費の計算ですが、税法で「モノ」によって耐用年数が決められています。建物も構造ごとに耐用年数が決められており、この耐用年数に応じて償却率というものが決められています。
鉄筋コンクリート(RC)47年・償却率0.022
重量鉄骨34年・償却率0.030
木造22年・償却率0.046
例として、1億円の新築建物の減価償却費を構造別に計算してみましょう。
鉄筋コンクリート(RC):
1億円×償却率0.022(耐用年数47年)=減価償却費220万円/年
重量鉄骨:
1億円×償却率0.030(耐用年数34年)=減価償却費300万円/年
木造:
1億円×償却率0.046(耐用年数22年)=減価償却費460万円/年
このように、同じ1億円の建物でも、RCは47年、重量鉄骨は34年、木造は22年間かけて経費化していくことになります。つまり、耐用年数が短い建物であるほど、年間の減価償却費が多くなりますので、帳簿上は、その事業の利益が減ることになり、支払う税金が減るということになります。
この「減価償却費」というのは、帳簿上利益が減るだけで、実際のお金はキャッシュアウトしません。先ほど説明した「損益通算」の仕組みと組み合わすことで、サラリーマン(給与取得者)であっても節税が可能となる上に、手元に残るキャッシュも増えます。
例えば、給与所得のうち課税所得額が1,000万円、これに加えて不動産所得が300万円あるとして、経費となる減価償却費が500万円だとすると、実質800万円の所得(1,000万+300万—500万)とみなされ、課税所得が下がります。
この場合、累進課税である所得税率も33%→23%になり、結果的に節税が可能となる場合があるのです。(平成29年4月1日現在の所得税の税率に準拠しています。実際には、所得税の還付申告が必要です。ここでは、わかりやすくする為に説明を簡略化していますので、詳細は専門家である税理士などにご相談ください)
- 太陽光発電設備の減価償却費について
それでは、太陽光発電事業をした場合の設備の減価償却費はどうなるのか、考えてみたいと思います。
太陽光発電所の設備は、税制上の「電気業用設備」の「その他の設備」の「主として金属製のもの」に該当し、耐用年数は17年となり、減価償却の方法は、個人の場合、通常の定額法か、定率法を選択することになります。
定額法は、毎年同じ償却額を計上する方法で、定率法は、設備を購入した当初にもっとも多くの償却額を計上し、だんだん少なくしていく方法です。
償却率は以下の通りとなります。
・定額法の償却率:0.059(耐用年数省令別表八より)
・定率法の償却率:0.118(耐用年数省令別表十より)
不動産の場合と条件を合わすために、仮に1億円の太陽光発電設備として、その減価償却の金額を確認してみます。
「定額法」の場合:
1年目:
1億円×償却率0.059(耐用年数17年)=減価償却費590万円/年
2年目:
1億円×償却率0.059(耐用年数17年)=減価償却費590万円/年
3年目:
1億円×償却率0.059(耐用年数17年)=減価償却費590万円/年
・
・
「定率法」の場合:(万円以下四捨五入)
1年目:
1億円×償却率0.118(耐用年数17年)=減価償却費1,180万円/年
2年目:
(1億円-1,180万円)×償却率0.118=減価償却費1,041万円
3年目:
(1億円-1,180万円-1041万円)×償却率0.118=918万円
・
・
このように、同じ金額を投資する場合、不動産賃貸事業よりも、太陽光発電事業の方が、減価償却費という経費を多く計上しやすくなる点、また、太陽光発電事業は、20年間の固定価格買取制度に基づいて行う事業ですので、出口戦略を考えた上でも、17年の耐用年数であることも大きなメリットと考えられます。
(生産性向上設備投資促進税制による即時償却は2016年、グリーン投資減税による特別償却は2017年3月に終了しましたので、ここでは説明を割愛します。)
- 「損益通算」をする上で注意しないといけないこと
減価償却費を計上すると、キャッシュアウトをせずに、しかも節税ができる場合があるということは、これまで解説した通りです。
これが「損益通算」の最大のメリットだとすると、一方でデメリットもあります。
それは、確定申告で所得が減ることにより、金融機関からの評価が下がる可能性もあるということです。
金融機関から融資を受ける場合、通常、確定申告の提出を求められる場合が多くあります。
融資を出す金融機関側から捉えると、損益通算の結果、所得が圧縮されていることは確定申告の内容を確認すれば分かりますが、負債額と所得のバランスは、重要な審査ポイントとなります。
負債が大きいのに、所得が極端に少ない場合、たとえ手元のキャッシュは潤沢にあったとしても、融資の審査で不利に働く場合もあるので、注意すべきです。
事業を行う上で、不測の事態が発生し突発的な支出が必要になり、金融機関からの融資で賄いたいと思う時もあるかもしれません。
不測の事態に備えて、節税で浮かせたキャッシュの用途は、きちんと計画しておくべきでしょう。
当然のことながら、キャッシュアウトする経費は最低限にとどめて、継続的かつ計画的に事業を推進する必要があります。
「節税」のために、事業をすることは本末転倒です。適正な事業をした結果、節税できる制度を有効利用するという心がけが重要です。
今回は、損益通算について解説しました。
これからも正しい知識を吸収しながら、成功する投資家を目指していきましょう。
2017/10/31